*精油の化学*

精油の化学は精油学総論に入るのですが、長くなってしまったのでこちらに別にまとめます。

 

香りについて知っておけば化学の知識なんて必要ないんじゃない?と思うかもしれませんが、そんなことはありません。

 

たしかに、セラピストとしてトリートメントをする時に、お客様に精油の化学について聞かれることはないでしょう。

 

でも、この精油にはどのような成分が含まれていて、どのような働きがあるか、ということを深く理解するためには化学の知識は欠かせません。

 

そのような深い知識があるからこそ、お客様に対する説明も説得力が違ってきます。

 

また、メディカルアロマではやはり化学の知識が必須。

 

アロマ環境協会の資格を取るつもりはなくても、メディカルアロマを学ぶなら、化学は必ず勉強してください。

 

それぞれの成分の特徴を知っておけば、何が含まれているかを見ただけで、だいたいの作用は分かるようになりますし、嗅いだことのない精油でもどのような香りか見当がつきます。

 


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マンガなのでわかりやすいです。

やっぱりまんがは頭に入りやすい。

化学の基礎から理解するにはもってこいです。


1.香りの分子の基本構造

 

5つの炭素からなる「イソプレン」という構造単位からなる。

 

炭素の先に水素がついている。

 

↓これがイソプレンです。


      

 

犬みたいな形でしょ。

 

精油のほとんどは、

  • 炭素(C)
  • 水素(H)
  • 酸素(O)

の3つから出来ています。

 

そこに官能基がつくことにより、様々な科学的特性を持つことになる。

 

**官能基とは**
2つ以上の原子で構成される分子の一部で、分子自体に異なる特性を与える。分子に強い極性や反応性を持たせ、構造上の転移をしやすくする。「〜基」と表現される(水酸基など)。


精油の官能基は酸素原子と水素原子の様々な組み合わせからなり、基礎的なテルペノイド骨格についている。

 

官能基は分子に著しい特性を与えるので、官能基ごとにグループを分けることが出来る。

 

→基本のイソプレンに酸素がついているか、それがどこについているかなど、どんな「おまけ」がついているかによって特徴が違ってくるということです。

 

1-1.手の数を覚えよう

Hの数などを覚えるためには、化学結合を理解しないといけない。

 

精油などの有機化合物は「共有結合」といって、単結合、二重結合、三重結合などがあるのだけど、これを一からやっているときりがなくなるので、原子の手の数を覚えよう。

 

  • 水素は1本
  • 炭素は4本
  • 酸素は2本

これは理屈ではなくて、暗記です。

 

イソプレンの基礎は炭素だから、そこに水素をいくつつければいいかは、元々ある炭素の手の数から考えればいい。

 

上の図でみると、左上の炭素はその下の炭素としかくっついていない。だから4本ある手のうち、1本を使っているから、残りは3本。だから「H3」となる。

 

右上の炭素は下の炭素と二重結合しているので、2本の手を使っている。だから残りは2本。「H2」となる。

 

これによって、イソプレンの基本単位を分子式で表すと「C5H8」となるのである。

 

ちなみにこの式から分子量も計算できる。それぞれの原子量は

 

  • 水素=1
  • 炭素=12

だから、イソプレンは「12×5+1×8=68」となるのです。

 


2.テルペン類


語尾に「ーエン」がつく。油には溶けるが水には溶けない。

 

2-1.モノテルペン炭化水素類

最も揮発性が高く、香りの中では「トップノート」。

 

時間の経過とともに空気中の酸素と結合し、過酸化物を産生する。

→しっかりと栓をして保存することが大切

 

薬理作用:鬱滞除去作用、抗炎症作用、コーチゾン様作用、抗ウィルス作用、抗菌作用

  • リモネン(肝臓強壮作用、蠕動運動促進作用、血圧降下作用、腎臓機能促進作用)
  • β-ピネン(強壮作用)
  • α-ピネン(強壮作用)
  • ミルセン(肝臓刺激作用、腎臓機能促進作用)
  • パラシメン(鎮痛作用)
  • δ-3-カレン(鎮咳作用)
  • α-フェランドレン(鎮咳作用)
  • サビネン
  • カンフェン

など。

 

とても蒸発しやすい成分ですから、柑橘系や樹木系のトップノートの精油が多いです。

 

2-2.セスキテルペン炭化水素類

「セスキ」とはラテン語で「1.5」の意味。

 

モノテルペンほど揮発性は高くなく、香りの中では「ミドルノート」から「ベースノート」。

 

薬理作用:+帯電(強壮刺激作用、鎮静作用、抗炎症作用)、ー帯電(鎮静作用、抗炎症作用)

  • β-カリオフィレン
  • カマズレン(抗アレルギー作用、抗ヒスタミン作用、抗炎症作用、鎮掻痒作用、皮膚組織再生作用)
  • β-ファルネセン
  • ジンジベレン(催淫作用、消化促進作用)
  • α-セドレン(リンパ強壮作用、静脈強壮作用、鬱滞除去作用)
  • α-ブルネッセン(リンパ強壮作用、静脈強壮作用、鬱滞除去作用)
  • β-セスキフェランドレン(抗カタル作用)
  • ヒマカレン(α、β、γ)(リンパ強壮作用、静脈強壮作用、鬱滞除去作用)

など。

 

2-3.覚え方のコツ

数が少ないものから覚えるのが基本。

 

モノテルペン類に比べるとセスキテルペン類の方が数が少ないので、そちらの名称を先に覚えます。

 

残ったものがモノテルペン、と消去法でいくと覚えやすいです。

 


3.アルコール類


炭素原子の1つに水酸基(-OH基)がついている。

 

酸素原子は片方がテルペノイド骨格の炭素原子と結合し、もう片方は水素原子と結合している。

 

語尾が「ーオール」で終わる。名前の他の部分は親であるモノテルペンに由来する。


水酸基(-OH基)と結合した炭素原子に他の炭素原子が、

  • 1つ結合したもの→第1級アルコール(酸化するとアルデヒドに変化)
  • 2つ結合したもの→第2級アルコール(酸化するとケトンに変化)
  • 3つ結合したもの→第3級アルコール(酸化しない)


 

 

 

3-1.モノテルペンアルコール類(モノテルペノール)

抗菌作用など幅広い働きを持ち、メディカルアロマの中でも有用な成分が多い。

 

薬理作用:抗菌作用、抗真菌作用、抗ウィルス作用、免疫調整作用、神経強壮作用

  • リナロール(鎮静作用、抗不安作用、血圧降下作用)
  • d-リナロール(神経強壮作用、疲労回復作用)
  • テルピネン-4-オール(副交感神経強壮作用、鎮痛作用、鎮静作用、抗炎症作用)
  • ゲラニオール(鎮痛作用、興奮作用、収れん作用、抗不安作用、皮膚弾力回復作用)
  • L-メントール(鎮痛作用、血管収れん作用、冷却作用、肝臓強壮作用)
  • ネロール(皮膚弾力回復作用)
  • シトロネロール(蚊忌避作用、鎮静作用、筋肉弛緩作用、血圧降下作用)
  • α-テルピネオール(神経強壮作用、誘眠作用、抗炎症作用、収れん作用)
  • ボルネオール(胆汁分泌促進作用)

リナロールはラベンダーを始めとして様々な精油に含まれている。

鎮静作用があるので、リラックス効果のある精油が多い。

 

3-2.セスキテルペンアルコール類(セスキテルペノール)

ベースノートの精油が多い。

 

薬理作用:ホルモン様作用、鬱血除去作用、強壮刺激作用

  • α-サンタロール(心臓強壮作用)
  • β-サンタロール(心臓強壮作用)
  • パチュロール(組織再生作用)
  • α-ビサボロール(抗炎症作用、鎮痙攣作用、抗潰瘍作用)
  • ベチベロール
  • ネロリドール(ホルモン様作用)
  • ビリディフロロール(静脈強壮作用、鬱血除去作用、エストロゲン様作用)
  • セドロール(リンパ強壮作用、静脈強壮作用、鎮静作用、鬱滞除去作用、鎮咳作用)
  • カロトール(肝臓細胞再生作用、腎臓機能促進作用)
  • ヒマカロール

 

3-3.ジテルペンアルコール類

スクラレオール→試験に出るジテルペンアルコール類はこれだけですから、スクラレオールだけ覚えておけば大丈夫!大事な作用はエストロゲン様作用。

 

3-4.覚え方のコツ

アルコール類はとにかく種類が多い。だから、それを分類して少ないものから覚える。

 

まず、ジテルペンアルコール類はスクラレオールだけ覚えればいい。

 

次に少ないのはセスキテルペンアルコール類。

 

サンダルウッドのサンタロールやパチュリのパチュロールなど、ベースノートの精油が多い。

 

そして最後はモノテルペンアルコール類だが、ここまでにジテルペンとセスキテルペンをしっかり覚えておけば、モノテルペンは暗記の必要がない。

 

例えば「次の成分は何類か」と聞かれた場合、ジテルペンじゃない、セスキテルペンでもない、と消去法を使えば自然とモノテルペンだとわかるので、そこにあえて暗記の時間を割かないこと。

 


4.アルデヒド類

 

少なくとも1個の水素原子が結合したカルボニル基 (-CHO-)(炭素原子に二重結合した酸素原子) が炭素鎖末端の原子に結合している。アルデヒドは第1級アルコールが酸化したもの。


「クミンアルデヒド」のように語尾に「アルデヒド」をつけたり、「クミナール」のように語尾に「アール」をつける。シトロネラールは第1級アルコールのシトロネロールに由来する。

 

 

アルデヒド類も皮膚刺激が強い成分なので、トリートメントに使う際には注意が必要な成分である。敏感肌の人は日九k目の濃度から試した方がいい。

 

4-1.テルペン系アルデヒド類

抗炎症作用を持ち、肌には比較的易しいアルデヒド類。

 

薬理作用:抗炎症作用、鎮痛作用、結石溶解作用

  • シトロネラール(昆虫忌避作用、抗ウィルス作用、抗炎症作用)
  • シトラール(ゲラニアール+ネラール)(抗ヒスタミン作用、鎮静作用、抗菌作用、抗真菌作用)

シトラールはレモンのような香りで、レモングラスやリトセアに含まれている。

 

4-2.芳香族アルデヒド類

強い抗菌作用を持ち、皮膚刺激も強いので、肌に使う時には注意が必要。

 

薬理作用:抗菌作用、抗ウィルス作用、抗真菌作用、駆虫作用、免疫刺激作用、神経強壮作用、発酵抑制作用

  • ケイ皮アルデヒド(鎮痛作用、強い抗菌作用、中枢神経抑制作用)
  • クミンアルデヒド

など。シナモン(樹皮)、シナモンカッシアはケイ皮アルデヒドが含まれているので、とても刺激が強い。原液塗布は絶対ダメです。

 

名前は「〜アルデヒド」とついているものが多いです。

 


5.フェノール類


芳香環あるいはベンゼン環についた水酸基(-OH基)を有していて、これによりアルコールと区別される。

 

ベンゼン環は6個の炭素原子で出来た六角形の環で、それぞれの炭素原子の結合は、すべて同等で中央に円を書く形で表される。

 

 

 

5-1.覚え方のコツ

 アルコール類と同じで、語尾に「オール」がつくのだが、区別するのは簡単。

  • チモール
  • カルバクロール
  • オイゲノール
  • チャビコール

 

この4つを覚えておけばよい。

 

もちろん、他にもフェノール類はありますが、精油の化学ではこの4つを覚えておけば十分だから、あとの「オール」がつくものはアルコール類だなという判断が出来る。

 

ちなみに、この4つのどれかが入っている精油は皮膚刺激が強すぎてトリートメントには使えないものが多い。

 

鎮数作用も強力で、どちらかというと麻酔に近い。

 

メディカルアロマの中でも、リラクゼーションではなくて治療目的で使われるような精油が多い。

 


6.ケトン類


カルボニル基を分子内に持つ化合物で、カルボニル基にこの炭素水素基が結合しているものをケトンという。


カンファーのように一般名で知られるか、語尾に「-オン」がつき、メントールからメントン、といったように元となる第2級アルコールに由来する。
 ツヨン、ベルベノン、ヌートカトン、イソメントンなど。

 


7.オキサイド類


酸素原子が環を作る構造に含まれる時に作られる。「酸化物類」とも呼ばれる。

 

通常、アルコールに由来するので、アルコールの名前を残して語尾に「オキサイド」をつけて命名することが多いが、独自の名前がついているものもある。(1,8-シネオール)
 ローズオキサイド、 1,8-シネオールなど。

 

色々ありますが、試験のために覚えておくのは1.8-シネオールだけでOKです。

 


8.エステル類


アルコールカルボン酸からなる鎖状骨格を持つ化合物。アルコールと酸から作られるので、元となる両方の分子にちなんで命名される。


リナロール+酢酸=酢酸リナリル(リナリルアセテート)

 

 

「酢酸〜」という名前なので分かりやすいでしょう。

 

酢酸リナリルや酢酸ベンジルなど、エステル類が含まれていると、比較的穏やかな香りで、リラックス作用の高い精油が多いです。

 


9.ラクトン類


閉じた環の一部となる酸素原子のとなりに常にC=O結合を有している環状のエステル。

 

ラクトン類は化学名が長過ぎるので、通常一般名で呼ばれている。

 


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